新型コロナ:ワクチンの供給は当面心配ない
新型コロナウイルスのワクチンの供給に関して、不安をあおる記事がたくさん出ています。ファイザー製の自治体への供給量が7月に激減するとか、職域接種・大量摂取センターのモデルナ製ワクチンの申し込みが停止されたとか。これを受けて、1回目の接種が完了した人が2回目の接種に不安を抱いたり、一般の人が高齢者接種の進捗に不安を抱いたりしています。いずれも事実ではありますが、不十分な事実です。報道では基本的な情報が提供されていません。すでに供給済みの数量、今後の予定されている数量、接種ペースを勘案すると、よほど接種ペースが上がらない限り9月までは大丈夫です。また、仮に不足したとすれば、それは多数の人に接種が完了したことを意味しますので、それはそれで良いことです。その点を数字を挙げて説明したいと思います。
まず、ファイザー製ワクチンの供給量を見てみます。情報源はこちらです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_supply.html
月別に供給量をまとめます。
一般(高齢者)分 | 医療関係者分 | 計 | |
3月 | 0 | 2,340,000 | 2,340,000 |
4月(5月9日まで) | 6,669,975 | 2,730,000 | 9,399,975 |
5月 | 37,440,000 | 4,914,000 | 42,354,000 |
6月 | 34,515,000 | 0 | 34,515,000 |
7月 | 25,740,000 | 0 | 25,740,000 |
合計 | 104,364,975 | 9,984,000 | 114,348,975 |
上にあるように、各自治体で接種するファイザー製ワクチンは1億1千万回分供給されている/される予定です。2回接種なので、ファイザー製ワクチンは約5500万人分になります。
高齢者は3600万人です。基礎疾患を持っている人数は正確にはわかりませんが、高齢者人数の1割だとします。そうすると、高齢者+有基礎疾患者で約4000万人いることになります。
したがって、ファイザー製ワクチンの非高齢一般者分は1500万人分(5500-1500)あることになります。
なお、ファイザー社との当初(1/20)の契約では年内に7200万人分が納入されることになっているので、少なくとも1700万人分が下半期に納入されるはずです。また、約2500万人分の追加契約も5/14にしています。これらは7月から9月のどこかで納入される予定ですので、下半期には使えます。
非高齢一般者向けにはファイザー製以外に、モデルナ製ワクチンが大量摂取センターや職域接種で使われています。この非高齢一般者向けモデルナ製ワクチンは上半期で2000万人分(4000万回分)確保されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14530.html
第3四半期(10-12月)には500万人分が追加されます。
なお、この他にアストラゼネカ製ワクチンが約1500万人分納入されています。詳しい使用状況はわかりませんが、他国援助に使われるので上半期に日本国内で使用されることはないと思われまず。また、おそらく下半期になると思いますが、4500万人分も納入される予定です。アストラゼネカ製ワクチンは状況によっては日本国内で使用されるかもしれませんが、とりあえず予備分と考えて、検討の対象にはしないことにします。
次に既に使用した量を見てみます。6/24に公表されたすでに行われた接種回数は3721万回です(1回目2556万回、2回目1166万回)。私の推定では、未報告数が少なくとも180万回あります。
なので、6/24時点で既に摂取された回数は約3900万回(2回接種換算で1950万人分)と見做せます。
以上をまとめると、上半期には
- 供給量は7500万人分(15000万回分)
- 使用済みは1950万人分(3900万回)
- 残りは5550万人分(11100万回分)
となります。下半期用としては、ファイザーとモデルナを合わせて、4700万人分が納入されます(うち2500万人分は7-9月のどこかでの納入)。
上に書いたように、10月からの下半期には追加の納入がありますので、使用状況は9月末までを検討すればよいことになります。6/25から9/30までは99日間です。ただ、
7月の連休やお盆休みもありますので、99日ではなく、実質は90日ぐらいだと思われます。
残りは11100万回分ですから90日で割ると、1日当たり123万回分になります。
現在の接種ペースは1日当たり120-130万回だと思われます。河野大臣は最大で150万回/日と推定しています。ただし、この120-150万回/日のペースを維持することは難しいと思います。少なくとも5000人以上の大規模接種会場を長くは維持できません。5000人未満のものも7月半ばからは減らさざるを得ないと思います。さらに、接種を希望しない人もいますので、8月半ばからは希望者が少なくなると思います。
これらを勘案すると、9月末までの平均接種ペースは1日当たり110万回程度だと思われます。
このように、現時点で1日当たり123万回分が確保できている一方、接種ペースは110万回程度とそれより小さいので、全国ではワクチン数は不足していないことになります。
都道府県単位でみても、8割程度の都道府県では不足することはありません。ただ、接種が進んでいる佐賀や岐阜、石川などの県では一時的に足りなくなる可能性は否定できません。特に人口が大きくて接種率の高い愛知県は要注意です。しかし、職域接種が大都市を中心に進んでいますので、名古屋を抱える愛知県も大丈夫なように思います。
いずれにせよ、余っている自治体が在庫を放出し、それを政府が再配分すれば問題はありません(実行可能かどうかはわかりませんが)。
もう一点強調したいことがあります。仮に、供給不足が発生したとします。そのときには、7500万人が接種完了していることになります。これは人口の60%になり、研究者によっては集団免疫が獲得できる目安としている数字です。それだけの数が完了することになるわけです。それ以上に重要なのは、高齢者と有基礎疾患者への接種がお盆前に完了することです。お盆には人流が極端に増えますので、その前に完了することは非常に重要です。少なくともそれは達成できますので、日本にとって安心できる材料といえます。