司法システムの問題:刑事補償法補償額の改定履歴

35年前、冤罪は十分に少ないしこれから減っていくものと無邪気に信じてました。しかし、その後も冤罪は頻発するし、無罪としか思えないものが有罪になったりしています。何より長期間の拘留は当たり前で、人質司法に全く変化が見られません。自白重視や長時間の取り調べも相変わらずだし、取り調べにおける脅迫的・詐術的言動も変わっていません。

そのため、元は死刑存置派でしたが、廃止派に転じました。

今日は無罪もしくは不起訴になった場合の補償について調べた結果を書きます。

まずは、拘禁の種類を整理しておきます。逮捕後の取り調べの際には被疑者として勾留(留置)されます。起訴後は被告人として勾留されます。両方を合わせて、すなわち逮捕されてから判決が出るまでの間の拘禁の全期間を未決勾留と呼びます。無罪の場合は、未決勾留だけですが、有罪判決が下された場合は懲役または拘留*1で拘禁されます。

無罪や冤罪の場合にはこの未決勾留と懲役期間の両方に対して補償がなされます。この補償額は刑事補償法で決められています。*2なお、これは飽くまで拘禁したことに対する代償であって、賠償ではありません。拘禁が不当であった場合への賠償は、国家賠償法で別に定められています。

さて、刑事補償法第四条に、無罪の判決を受けた場合の抑留又は拘禁による補償の額が規定されてます。一日当たりの補償額は下限が1000円、上限が12,500円です。また、死刑執行の補償は3000万円です。

私は、これが低いと感じました。改定すべきです。とはいえ、過去はどうだったかを知らなければ正確には判断できません。というわけで、改定の履歴を調べました。結論を書くと、平成四年(1992年)、すなわち31年前が最後の改定であることが分かりました。

当該の31年間で、大卒初任給は約19万円から約21万円に約10%上昇し、最低賃金は595円から961円へと62%上昇してます。このことを考えると31年間改定しなかったのは、政治の怠慢と言えそうです。少なくとも私はそう考えます。*3

 

以上が私の意見。以下、調べた結果を書きます。まず、刑事補償法第四条を引用します。具体的な金額に下線を引きました。

 

第四条 抑留又は拘禁による補償においては、前条及び次条第二項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、一日千円以上一万二千五百円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。
 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。
 死刑の執行による補償においては、三千万円以内で裁判所の相当と認める額の補償金を交付する。ただし、本人の死亡によつて生じた財産上の損失額が証明された場合には、補償金の額は、その損失額に三千万円を加算した額の範囲内とする。
 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、同項但書の証明された損失額の外、本人の年齢、健康状態、収入能力その他の事情を考慮しなければならない。
 罰金又は科料の執行による補償においては、既に徴収した罰金又は科料の額に、これに対する徴収の日の翌日から補償の決定の日までの期間に応じ徴収の日の翌日の法定利率による金額を加算した額に等しい補償金を交付する。労役場留置の執行をしたときは、第一項の規定を準用する。
 没収の執行による補償においては、没収物がまだ処分されていないときは、その物を返付し、既に処分されているときは、その物の時価に等しい額の補償金を交付し、また、徴収した追徴金についてはその額にこれに対する徴収の日の翌日から補償の決定の日までの期間に応じ徴収の日の翌日の法定利率による金額を加算した額に等しい補償金を交付する。

 

次に、改定履歴を示します。

 

  • 平成四年六月二六日法律第八三号
    第四条第一項中「九千四百円」を「一万二千五百円」に改め、同条第三項中「二千五百万円」を「三千万円」に改める。
  • 昭和六三年五月一七日法律第四二号
    第四条第一項中「七千二百円」を「九千四百円」に改め、同条第三項中「二千万円」を「二千五百万円」に改める。
  • 昭和五七年八月一〇日法律第七六号
    第四条第一項中「四千八百円」を「七千二百円」に改める。
  • 昭和五五年五月七日法律第四二号
    第四条第一項中「四千百円」を「四千八百円」に、「禁こ」を「禁錮」に改め、同条第三項中「千五百万円」を「二千万円」に、「但し」を「ただし」に改める。
  • 昭和五三年四月二五日法律第二八号
    第四条第一項中「八百円以上三千二百円以下」を「千円以上四千百円以下」に改める。
  • 昭和五〇年一二月二〇日法律第八七号
    第四条第一項中「六百円以上二千二百円以下」を「八百円以上三千二百円以下」に改め、同条第三項中「五百万円」を「千五百万円」に改める。
  • 昭和四八年六月二二日法律第三七号
    第四条第一項中「千三百円」を「二千二百円」に改め、同条第三項中「三百万円」を「五百万円」に改める。
  • 昭和四三年五月三〇日法律第七五号
    第四条第一項中「四百円以上千円以下」を「六百円以上千三百円以下」に改め、同条第三項本文中「百万円以内」を「三百万円以内」に改め、同項ただし書中「百万円」を「三百万円」に改める。
  • 昭和三九年四月二七日法律第七一号
    第四条第一項中「二百円以上四百円以下」を「四百円以上千円以下」に改め、同条第三項本文中「五十万円以内」を「百万円以内」に改め、同項ただし書中「五十万円」を「百万円」に改める。

以上です。

 

*1:勾留ではなく拘禁刑の一つ

*2:厳密には、上に書いたように未決勾留には2種類あり、別のルールで補償額が決まっています。被疑者としての勾留に対しては被疑者補償規程で、被告人としての拘留に対しては刑事補償法で決まっています。ただ、被疑者補償規程は刑事補償法に倣っていますので、ここでは刑事補償法を見るだけで十分です

*3:一方、会社員の平均給料はほとんど上昇していないか、(1992年がバブル景気直後だったので)下がっていると言われている。「毎月勤労統計調査 令和3年分結果確報」によれば、2021年の平均月額は319,461円で、平均の月労働時間は136.1時間である。すなわち、時給は2347円である。1992年のものは見つからなかったが、「毎月勤労統計調査 平成9年度分結果」で1997年の結果を見ると、平均月額は371,495円で、平均の月労働時間は157.3時間である。時給では2362円となる。ほとんど変わっていない。ただし、これら平均値は専業主婦や高齢者などのパート・アルバイトの増加の影響を受けており、時系列比較として不適切であるが、参考情報として付しておく。