新型コロナ:感染抑制に成功した国々
感染抑制に成功した国・地域を調べてみました。香港、タイ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、中国、スロバキア、韓国、チュニジア、ギリシャ、クロアチア、ノルウェー、イスラエル、スイスが抽出できました。ちなみに、前記は死亡率が低い順に列挙しています。なお、調べる都合上、累積感染者数と人口が小さい国は対象に含めませんでした。
これらの抑制成功国を調べた限りでは、陽性率と、感染率や死亡率、致死率との関連は見出せませんでした。すなわち、検査数を多くして陽性率を下げることが、感染数や死亡数を減らすという証拠は見出せませんでした。
以下、詳細を説明します。
新型コロナウイルス肺炎について、さまざまな検討が行われています。その中で、東・東南アジアとオセアニアの諸国での死亡率が低いことが話題になっています。死亡率は、人口当たりの死亡数です。すなわち、これら諸国では新型コロナウイルスによる死亡が絶対的に少ないのです。
いろいろな要因が分析されていますが、決定的なものはありません。私も個人的に調べてみたのですが、単独の要因で明確に相関があるものは見つかりません。
有力視されているBCGワクチンの日本株は、確かに死亡率との関連が見られます。しかし、他の株では関連が見られませんし、また人口当たりの感染確認数とは関連しなさそうなので、因果関係を言えるほどの強い関連はなさそうです。
既に今回のものに似たコロナウイルスに対する抗体を持っているという仮説もありますが、今回の2019-nCoV、SARS、MERS以外のコロナウイルスは普通の風邪の原因ですから、おそらく世界中に蔓延しています。そのため、強い地域性があると考えるのは難しいと思います。
要因分析が難しいことから。視点を変えて、まずは感染抑制に成功した国々を列挙してみようと思いました。それらの国の共通項を探せばよいのではないかという発想です。
感染抑制は次の2つの条件を満たした状態と定義しました。
- 1日の感染確認の増加率が0.5%以下
- 1日の新規の感染確認数が百万人当たりで3人以下
また、人口が少ない場合(200万人未満)と、累積の感染確認数が少ない場合(500人未満)は統計的ゆらぎが大きいので、どちらも調べる対象にはしませんでした。台湾とベトナムは明らかに感染抑制に成功していますが、累積数が少ないため、今回の調査対象にはなっていません。
さて、結果を掲載します。データは主としてworldmeterのサイトに掲載された5月19日の時点のものを使いました。
Country | 増加率 | 新規数/百万人 | 検査数/百万人 | 感染確認数/百万人 | 死者数/百万人 | 左の年齢調整近似値 | 陽性率 | 致命率 | 年齢調整致命率 | 高齢化率 |
Hong Kong | 0.00% | 0.00 | 22468 | 141 | 0.5 | 0.8 | 0.6% | 0.4% | 0.6% | 16.9% |
Thailand | 0.07% | 0.03 | 4099 | 43 | 0.8 | 1.8 | 1.1% | 1.8% | 4.3% | 11.9% |
Japan | 0.38% | 0.49 | 2021 | 129 | 6 | 6 | 6.4% | 4.7% | 4.7% | 27.6% |
Australia | 0.11% | 0.31 | 42640 | 278 | 3.9 | 6.8 | 0.7% | 1.4% | 2.5% | 15.7% |
New Zealand | 0.27% | 0.83 | 48537 | 312 | 4.3 | 7.5 | 0.6% | 1.4% | 2.4% | 15.7% |
China | 0.01% | 0.00 | 58 | 3.2 | 8.1 | 5.6% | 14.0% | 10.9% | ||
Slovakia | 0.33% | 0.92 | 26647 | 274 | 5.1 | 9 | 1.0% | 1.9% | 3.3% | 15.6% |
S. Korea | 0.12% | 0.25 | 14934 | 216 | 5.1 | 9.7 | 1.4% | 2.4% | 4.5% | 14.4% |
Tunisia | 0.19% | 0.17 | 3526 | 88 | 3.8 | 12.6 | 2.5% | 4.4% | 14.4% | 8.3% |
Greece | 0.14% | 0.38 | 13041 | 272 | 15.8 | 20 | 2.1% | 5.8% | 7.4% | 21.7% |
Croatia | 0.18% | 0.97 | 13583 | 543 | 23.3 | 31.3 | 4.0% | 4.3% | 5.8% | 20.5% |
Norway | 0.12% | 1.85 | 40614 | 1526 | 43 | 69.4 | 3.8% | 2.8% | 4.5% | 17.1% |
Israel | 0.10% | 1.85 | 59314 | 1928 | 32.1 | 73.8 | 3.3% | 1.7% | 3.8% | 12.0% |
Switzerland | 0.07% | 2.43 | 40486 | 3541 | 218.6 | 324.3 | 8.7% | 6.2% | 9.2% | 18.6% |
14か国が抽出されました。調査対象は概ね100か国ですから、15%ほどの国しか感染抑制に成功していないということになります。地域性はあまりなく、北・南アメリカ以外の地域に満遍なく散らばっています。
表には次の数値を記し、Fの値の小さい順で整理しました。
- (A)増加率(感染確認者の新規と累積の比)
- (B)百万人当たりの新規感染確認者数
- (C)百万人当たりの累積検査数
- (D)百万人当たりの累積感染確認者数
- (E)死亡率(百万人当たりの累積死亡数)
- (F)死亡率Eを近似的に年齢調整したもの E×27.6/J
- (G)陽性率 D/C
- (H)致命率(致死率) E/D
- (I)致命率Hを近似的に年齢調整したもの H×27.6/J
- (J)高齢化率(全人口に対する65歳以上人口の比率)
AとBは、感染抑制成功の判定に用いたパラメータです。
Eは、最初に東・東南アジアとオセアニアで小さいと書いた死亡率ですが、この数値は高齢化率に強い影響を受けます。高齢者の人口比率が高ければ死亡率が高くなり、若い人の人口比率が高ければ死亡率が低くなります。そのため、年代別の死亡数を調べて、年齢構成が同じになるように補正する必要があります。これを年齢調整と呼びます。がん死亡率などでも使われていますので、ご存じの方が多いと思います。
ただ、年齢調整するためには、年齢別の数字が必要です。現時点ではこれが得られるのはごく少数の国です。そのため高齢化率で、近似的に補正しました。それがFで、計算式は E×(日本の高齢化率)/(対象国の高齢化率)です。データが得られて年齢調整ができた7か国で調べましたが、10%ほどの誤差はあるものの、近似値として十分に使えることを確認しました。例えば、韓国は年齢調整死亡率が11ですが、近似値は9.7ですから近い値が算出できています。
致命率も同様に高齢化の影響を強く受けますので、同じ方法で近似的に年齢調整したものを計算しました。ただ、統計的な意味はほとんどないと思います。
さて、近似的年齢調整死亡率を見てみます。
明らかに、香港とタイが小さな値になっています。これに今回調整対象に含めなかったベトナムと台湾を加えた4か国は死亡率に関しては超優秀といえます。
日本から韓国までの6か国は死亡率が10人以下ですから、その次に優秀なグループといえます。ただ、中国は面積も人口も大きいため、省の単位でみるべきかもしれません。その場合、湖北省は死亡率が100以上と大きく、その他の省は0~5程度になると思います。
これらの国の陽性率を見ると、日本以外は2%未満です。したがって、もしかすると陽性率と死亡率は関係があるかもしれませんが、明確には言えません。日本が含まれていること以外に、感染抑制にまだ成功していない国で、陽性率が2%未満なのに死亡率が高い国があるからです。
その他の感染確認数、致命率、高齢化率、地域について陽性率との関連を見てみましたが、いずれも関連は見出せませんでした。その他の要因も考えてみましたが、やはり共通項は見つかりません。
もし、共通項を見つけた方がいらっしゃれば、是非ともコメントをください。よろしくお願いします。