新型肺炎:韓国の新規感染は減少しているのか?

WHOから韓国の新型コロナウイルスの集団感染についてこんな発表があったそうです。

 

WHO「韓国で新型コロナの新規感染減少傾向…心強い兆候」

中央日報/中央日報日本語版2020.03.06 08:48
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世界保健機関(WHO)が韓国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況について「新規感染の減少が見られ、心強い兆候」と評価した。

テドロス・アダノム・ゲブレイェソスWHO事務局長が5日(現地時間)、スイス・ジュネーブのWHO本部で開かれたメディア記者会見で「韓国で新たに報告された新型コロナウイルス感染事例が減少している」とし「心強い兆候を見ている」と述べた。

これは、韓国政府の「今後減少する見込み」という認識を受けたものですが、本当に減少しているでしょうか?

データを見る限り私は減少しているという印象を受けなかったので、違和感を覚えました。そこで、データを少し分析してみました。

結論を先に述べておきますと、感染判明率がピークよりは減っているのは確かです。ただ、減少し続けてはおらず現時点ではほぼ一定です。したがって、WHOの声明はまだ早いと思われます。

 

さて、新規感染が減少したことを確認するにはどの指標が良いのでしょうか? いろいろ考えられますが、検査件数当たりの陽性判明数、すなわち陽性率を用いることにします。

 というのも、利用可能なデータがあるからです。韓国政府は、陽性判明数、検査受付数、検査処理待ち数を定時に発表しています。いずれの数値も累積数ですが、前回発表との差をとることで新規分の陽性判明数と検査処理数が計算できます。

ということで、聯合ニュースの記事を集めて、累積の陽性判明数、検査受付数、検査処理待ち数を集め、それから新規の検査処理数と陽性判明数を計算しました。

結果が次の表です。

 

日時 陽性累計 陽性判明数 検査数 陽性率%
25日9時 893 60    
25日16時 977 84 2893 2.90
26日9時 1146 169 2754 6.14
26日16時 1261 115 3379 3.40
27日16時 1766 505 7742 6.52
28日9時 2022 256 4849 5.28
28日16時 2337 315 4426 7.12
29日9時 2931 594 5015 11.84
1日9時 3526 595 7429 8.01
2日0時 4212 686 10543 6.51
3日0時 4812 600 13904 4.32
4日0時 5328 516 17481 2.95
5日0時 5766 438 16000 2.74
6日0時 6284 518 17659 2.93
7日0時 6767 483 15178 3.18
8日0時 7134 367 10206 3.60

 

見て分かるように、新規の陽性判明率は29日9時がピークです。8日0時の時点ではピークの約3分の1にまで減っています。ピークより減っているという意味では減少しています。ただし、4日からはほぼ3%と一定であり減っている状況ではありません。むしろこの2日ほどは上昇しています。

したがって、WHOが言うように感染事例が減少しているという状況では全くありません。

この現象はどう考えればよいでしょうか? よくある感染症数理モデル(例えばSIRモデル)では、感染者数は徐々に増加してひとつのピークを描き、ピーク後は徐々に減少します。実際の陽性判明者数は一定・再増加していますから、通常のモデルのようにピークが過ぎたから減少するとは言えません。

 

では、実際の韓国での現象と数理モデルとの違いはどこからきているか? これを少し考えてみます。

 

まず、一番大きな違いは、モデルでは感染者数を観測量としてとっているのに対して、上記の表では観測量が陽性判明者数であることです。数理モデルでの感染者数は、診断で確定した人の総数の場合も、データから推定した推定総数の場合もあるようですが、どちらにせよ実際に感染した人の数です。一方、陽性判明者数は、(当たり前ですが)その時点で検査で陽性となった人の数です。これが実に厄介です。

現在韓国では、調査対象を広げすぎて検査が追い付いていません。すなわち、陽性判明者数は実際の感染者数よりも少なくなっています。また、検査は感染の疑いが強い人を最初にしますので、日によって検査するグループの統計的性質が異なっていると考えられます。表ではわりと急峻なピークが見て取れますが、私の感覚では急峻すぎます。そのため、感染者数の変化を反映しているというより、検査グループの統計的性質の変化を示しているだけのように感じられてなりません。

他にも問題があります、韓国では積極的に検査数を増やしているために、症状の軽い人や症状の出ていない人の割合が高いと思われます。症状の出ていない人は数理モデルの感染者に該当するのでしょうか? また、症状の軽い人も普通は風邪と思って、特段の治療をせずにそのまま治ってしましますが、これも数理モデルの感染者に含めてよいのでしょうか? ちょっと、この点はわかりません。

 

いずれにせよ、結論としては、韓国の感染が減少しているとは言えないというものになります。また、韓国の現状は、ピークの後に単調減少するような数理モデルをあてはめられる状況ではなく、多少の陽性判明率の増減からは何も結論付けられないとも指摘できます。

 

最後に、韓国の状況で気になっているのは、医療システムが飽和していて崩壊に近いことです。これからしばらくは死者数の増加が増えるのではないかという懸念を抱いています。それから、検査での偽陰性が多いことも気になります。実際には感染しているのに検査で陰性と判定された人が起点となったアウトブレイクが当面は収まらないのではないかと心配です。