韓国レーダー照射:やっぱり高度情報は誤差の大きい気圧高度計によるものだった

 


タイトルでは気圧高度計と断言していますが、実際のところは、断言できるほどの知識が無いので、その可能性が非常に高いという話です。個人的には、ほぼ間違いないと思っています。気圧高度計というのは推定ですが、少なくともレーダーによる高度でないことは確かです。最初に本エントリの結論を、ややあおり気味の表現で、書いておきます。

  • 韓国政府が発表した高度情報はレーダー計測結果ではなく、誤差の大きい気圧高度計によるもので、それを「科学的」と表現するのは正気を疑うレベル
  • 時事通信の記事は間違いが多くて論外で、scopedog氏がそれを引用したのは残念

です。本記事に関する間違いの指摘や追加の情報をどしどしお寄せください。


さて、前置きとして、前回の記事の振り返りを簡単に。

韓国政府は、1/24に韓国の軍艦が日本の哨戒機による、

1.1/18 距離1.8km、高さ60-70m
2.1/22 距離3.6km、高さ30-40m
3.1/23 距離540m、高さ60-70m

の3回の近接威嚇飛行を受けたので謝罪せよと日本政府に要求し、3回目の事象の「科学的」証拠として、レーダー観測結果の画像を提示しました。

しかし、調べてみると韓国軍艦が装備しているレーダーの高さ方向の分解能は12度と大きく、3回目の距離540m、高さ60-70m(仰角7.4度)を検知できません。ましてや、距離3.6km、高さ30-40m(仰角0.64度)なんて全く不可能事です。

また、先の記事には明確には書きませんでしたが、他にも疑問があります。上の情報では距離にかかわらず、高さの精度が同じです。その数値を見ると、30-40mと、その2倍の60-70mの2種類に限定されています。これは、明らかに元の表示が100ftと200ftであることを意味します。しかし、レーダーは、長さを計測するのではなく角度を計測します。したがって、高さの精度は、対象物が遠いほど悪くなります。なのに、上ではそうなっていないのは不自然です。

このようなことから、高度情報ではレーダー計測によるものではあり得ず、他の計測によるものです。だとしたら一体何によるものなのかを考えました。その結果、飛行機自身が衝突防止のために発信している高度情報であり、しかも天候によって誤差が生じる気圧高度計のものではないだろうかと結論したのが前回です。

そこで、航空機の衝突防止システムを調べました。その結果、上記の推測が成り立つことを確認しました。また、その情報を収集する過程で全く同じ推測をしている人がいることを見つけました。それが非常に納得いくものだったので、それを紹介するとともに、それに+αの検証をしてみました。また、最後の方で、scopedog氏のブログ記事と、そこで引用されている時事通信の記事の間違いも指摘しています。

 

 


まず、その見つけた推論の情報です。

 

⑤韓国国防部「再度・威嚇飛行」と発表・・非難の応酬始まるhttps://blogs.yahoo.co.jp/y294maself/37931412.html

 

上記の記事は泰弘さんによるものなのですが、そのコメント欄に小嶋日向守さんによる推測が投稿されています。当日の気圧まで調べて、推測の妥当性までチェックしています。少し引用します。

 

これ(注:レーダーの高度表示)は、海上自衛隊のP3C哨戒機が、その表示されている23日の午後2時3分頃に、高度200フィート、すなわち高度60mで飛んでいるという電波信号を出していて、それを韓国海軍の駆逐艦がレーダーで捉えたことを意味しています。

 

 

航空機のトランスポンダーというのは、気圧高度計の数値を100フィート単位で発信しているもので、気圧高度計は、1013hPaを高度0として測定します。これは平均気圧を目安にしたものですから、この日の事件現場のように大陸から高気圧が張りだしてきた影響で、事件現場では、地上面(海上面)気圧が1023hPaだったのですから、海面の位置でも通常の高度0表示より低い値を送信します。つまり、高度計は10hPa分にあたる海面下90m=-300フィートを表示します。
したがって、この時、P3C機が、高度150m=500フィートを飛行していたとしても、その気圧高度計は200フィートと表示し、かつその情報をトランスポンダーで送信したのでしょう。

非常に納得できるもので、最初に私が示した高さ情報の矛盾を説明可能です。私自身が調査した結果と一致しています。また、当日の気圧まで調べて、推測の妥当性まで示しています。非常に「科学的」な推論であり、この推測に完全に同意します。

小嶋日向守さんは、Ht Source(高さのソース)がAircraftとなっているのは、そのことを示しているとも示唆しています。私もそう思いますし、付け加えれば、EnvがAirになっているのは、気圧高度計の結果であることを示していると思います。

小嶋日向守さんは1/23の天気図で調べておられますが、せっかくなので、1/18と1/22の天気図で気圧を確認しました。ちなみに、韓国マスコミの報道によれば、1/18は対馬海峡付近、1/22は対馬海峡離於島の中間にある済州島付近での出来事のようです。韓国マスコミの報道が正しいかどうか分からないので、大和碓、対馬海峡離於島の3つの位置の気圧を調べました。

  • 1/18は、大和碓付近で1024hPaで、対馬海峡付近は1027hPa、離於島付近では1028hPaです。
  • 1/22は、大和碓付近で1016hPaで、対馬海峡付近は1020hPa、離於島付近で1022hPaです。

1/22は概ね1/23と同じ気圧ですから、同じ高度になったのでしょう。1/18はもっと高い気圧だったので、さらに低い高度になったと考えられます。

このように、小嶋日向守さんが確認した1/23の事例だけでなく、1/18、1/22の事例においても気圧高度計による数値であるという推定の妥当性が確認できました。

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まとめます。
韓国発表の高度情報は、レーダーで計測したものではありえません。哨戒機自身の気圧高度計の数値であり、それを衝突防止システムによって自動的に韓国軍艦に送られたものと考えられます。
レーダー計測によるものではない根拠としては、

  • レーダーの分解能に比べて、数値が小さすぎる
  • 対象物までの遠近にかかわらず、高度の精度が一定でレーダーの性質と整合しない
  • 高さの数値が100ftと200ftの2種類しかない(離散化されている)

が挙げられます。
気圧高度計の根拠としては、

  • レーダー画面で、高度情報は方位・距離とは別の位置に表示されている
  • 当日の気圧の情報で高度の数値の小ささが説明可能
  • 航空機の気圧高度計は100ft単位
  • レーダー画面での表示Ht Source Aircraftは高さ情報は哨戒機自身によるものであることを意味していると推察される
  • レーダー画面での表示Env Airは、気圧高度計であることを示していると考えられる

ということが挙げられます。

個人的には、高度の数値がレーダー計測によるものではないことは確定であり、また気圧によって数値が左右される気圧高度計によるものであることもほぼ間違いないと思っています。いずれにせよ、距離3.6km、高さ40mという数値を「科学的」証拠とするのはとんでもないことであり、韓国国防省の「科学的」のレベルは非常に低いと結論づけざるを得ません。


と、ここまでが本論なのですが、本事象について検索していて気になるブログ記事を見かけました。

 

こういう検証は韓国政府公表資料に対してだけではなく日本政府公表資料に対してもやるべきなんだけどね。
http://scopedog.hatenablog.com/entry/2019/02/01/080000

 

scopedog氏が記事のタイトルで示しているように、韓国と日本の公表資料について、両方に対して「客観的」に検証を行うべきだと思います。その点には大いに賛同するものですが、如何せん、引用している時事通信の記事がよろしくない。

まず、その記事の一部を引用します。

 

韓国公表のレーダー画面、徹底分析=P3Cデータ確認も・機影写真は証拠ならず-防衛省
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019012500037&g=soc

◇3次元対空レーダーの画面

 韓国側が公表した2枚のレーダー画像は、韓国駆逐艦が装備する米レイセオン社製の3次元の対空(Air Search)レーダーの画面とみられる。自衛隊の説明によると、レーダー画像の記録日時は1月23日午後2時3分。秒の表記がないため2枚の順序は不明だ。画面上部にある「TBM Posn」は探知するターゲットの方位・距離、位置を表示する略称。その下に緯度と経度が表示されている。
◇探知モードは航空機
  2枚のうち1枚はTBM Posn「143 0.30」とあり、これは韓国駆逐艦から南東方向に0.3カイリ(約550メートル)の距離に航空機が位置したことを意味する。ちなみに方位は0度が北、180度が南となる。画面下にはレーダーの航空機探知モード「AIR」の表示とともに、「Ht 200 ft(高度200フィート=約60メートル)」とある。表示を総合すると、1月23日午後2時3分に、P3Cとみられる航空機が韓国艦から南東約550メートルの距離にあり、高度約60メートルで飛行したという意味だ。

この記事を受けて、scopedog氏はブログ記事で次のように記述しています。

日本のP-3Cは、大祚栄艦のほぼ真南(方位185度)から接近し、大祚栄艦の南東側(方位143度)を通過したという感じですね。

さて、これらの画像から何がわかるかというと、まずレーダー画面画像から、14時03分に接近してきた航空機の高度(200ft)と大祚栄艦からの距離(0.7~0.3海里)の情報がわかります。そして赤外線画像(14:03:22)は、同時刻に接近していた航空機の形状を示し、時刻不明の写真と照らし合わせると、その航空機がP-3Cであることがわかります。

つまり、高度と距離の根拠としてレーダー画面画像があり、日本海自のP-3Cであったことの根拠として赤外線画像と写真があるということです。

時事通信の記事が正しいという前提で書いておられます。ところが、私の目には、時事通信の記事は完全に間違っているように見えます。その根拠を書いておきます。

  • 「米レイセオン社製の3次元の対空(Air Search)レーダー」とあるが、同レーダーは2次元レーダーであり、高度は計測できない。仮に高度が計測できたとしても、同レーダーの高さ方向のビーム幅は11度でMW-08と同等であり、本エントリの最初で述べたように100ftや200ftを検知する性能は無い。
  • 同記事では方位0度を真北と考えて、②-①のときの方位185度を真南、③-①の最接近時の方位143度を南東としている。すなわち、軍艦の南側を通ったときに最接近したことになっているが、それだと韓国の新聞記事の哨戒機経路図と合致しない。経路図では、哨戒機が軍艦の北側を通ったときに最接近したことになっている。また、軍艦の南側では哨戒機は西から東に向けて飛んでいるが、その場合、最接近は真南であり、南東ではそれよりも距離が遠くになるので、レーダー画面の情報と矛盾する。
  • 方位0度を真北とすると、緯度経度の情報とも矛盾する。緯度経度の情報からは③-①は②-①の南西になるので、②-①を真南、③-①を南東とするような位置は存在しない。
  • 一般の船のレーダーの方位0度は船首方向を意味する。韓国軍艦でどうなのかは不明だが、船首方向が方位0度で、軍艦の船首は南南西に向いていたと考えると哨戒機の経路図と緯度経度の情報、レーダー画面の方位・距離の3種類の情報が整合する。これ以外では整合しない。

ということから、この時事通信の記事は与太記事だとしか思えません。そのような記事を正しいという前提で引用するのは、scopedog氏にとって大変よろしくないことだと思います。

scopedog氏には、ご自身のブログ記事タイトルで示唆されているように、情報を公平に吟味して頂きたいものです。