新型コロナ:PCR検査は足りている
2か月近くがたちました。
前回、自粛と休校の効果が見られたと書いたのですが、まるでその記事がフラグになったかのように増加傾向に転じてしまって、己の不明さを反省するばかりです。
一応言い訳をしておくと、前回の記事の時点で、
- 東京・大阪で3月上旬から高齢でない自営業・会社役員の感染が増えていて、夜の街を介した連鎖感染が発生していること
- 欧米・フィリピン・中東からの帰国者を起点とした小クラスタが散発していること
に関する記事を準備していたのですが、データを書いた手書きメモを入力するのが手間だなあと思っている間に、あれよあれよと状況が悪化してしまいました。それを踏まえて反省しました。もう手書きデータの入力はせずに、気が付いたことは順々に書いていこうと。
で、今日はPCR検査数についてです。
マスコミ・野党をはじめ、相変わらずPCR検査可能数を増やせという声が強いです。しかし、現時点では明らかにPCR検査数は足りています。
検査数の充・不足を判断する指標は、陽性率です。検査数ではありません。ちまたでの検査数が少ないという根拠の一つは、欧米・韓国・台湾に比べて日本での検査数が少ないという事実です。
しかし、PCR検査は感染者が少なければ少なくなり、感染者が多ければ多くなるもので、PCR検査数の大小だけでは、その充・不足を判断できません。
そのため、現在の感染者数に対して十分かどうかを判断する必要があります。その指標が検査数に占める陽性数の割合=陽性率です。あるいはその逆数である、感染者一人を見つけるのに必要な検査数でもいいです。
感染症の研究者である神戸大の岩田教授は陽性率10%未満が目安と言っています。私が各国の状況を見た限りでも、爆発的な感染拡大が発生したときには陽性率が20%を越える事例が多数あります。欧米での3月上~中旬の感染拡大期にはどの国も陽性率が非常に高く、30%を越えてる事例もありました。また、現時点で陽性率が15%以上の国は感染拡大が続いているか、あるいはまだ抑え込めていない状況にあります。
したがって、「陽性率10%未満」は検査数の充・不足を判断する良い指標だし、おそらく唯一の指標です。
さて、現在の日本の状況ですが、すべての都道府県で陽性率が5%を下回っています。少数の県で突発的に5%を越える時があるようですが、突発的であり全く問題になるような状況ではありません。
したがって、現在の日本ではPCR検査数は十分に足りています。
では、過去はどうだったか?
東京では、3月25日から1か月間陽性率が20%を越えていました。また、大阪でも4月上旬から中旬の10日ほど20%を越えていました。同時期に他の県でも短い期間ですが20%を越えていた事例がありました。したがって、4月の上旬・中旬は明らかに足りていなかったといえます。
第2波の到来や他の感染症に向けた大きな反省点であり、陽改善点です。
おそらく検査能力が足りないというよりも、管理・制御できない状況だったのだと思われますので、検査可能数を増やすよりも、仕組みの改善が必要なのだと思います。
いずれにせよ、現時点ではPCR検査数は足りており、検査能力の拡充の必要性は相当に低くなっています。検査の管理の改善など、他のもっと必要性の高いことを優先的に実行することが望ましいのではないかと考えます。
書き忘れたので追記します。
現時点での全国での陽性率は、感染者の減少に伴って1~2%と低くなっています。また、検査にかける人は疑似症追跡と感染追跡、検疫で見つけていますが、現在は検査する人そのものが少なくなっています。
例えば、2週間前の検査人数は1日で1万ぐらいでした。1週間前は5千程度です。それがここ数日は3千程度にまで減っています。
現時点では感染確定数が30~40ですから、検査を1万件ぐらい実施しても医療機関に負荷がかかることはないでしょう。疑似症と、感染接触の基準を下げて、検査数を増やすべきです。
重ねて言いますが、検査能力を増やす必要性は非常に低くなっています。一方、実績で検査数が減少していて検査能力が遊休化していますから、基準を下げて検査数を増やすべきです。
新型コロナ:国内感染はピークを過ぎた!‥‥と思う
前回の記事で、毎日の感染判明者数の減少は明確ではないが、それは海外感染者が増えているためではないかということを書きました。その点を確認しました。
厚労省のサイトに載っている事例で海外感染者を数えて、推移を調べました。
その結果です。
期間 | 感染判明者数 | 国内感染者数 | 海外感染者数 |
---|---|---|---|
3/10(火)~3/14(土) | 53.2人/日 | 48.6人/日 | 4.6人/日 |
3/17(火)~3/21(土) | 43.4人/日 | 30.6人/日 | 12.8人/日 |
上段の期間は感染判明者数がピークとなった5日間で、下段は直近の5日間です。どちらも水曜から土曜までとなっています。日月は感染判明数が少ないので、含めていませんが、含めても結論は変わりません。
その結論です。ピークとその1週間後を比べると、総数では18%の減少にすぎませんが、国内感染は37%減少しています。これは明瞭に減少しているといってよいでしょう。日本全国、大々的に様々な行動を自粛し、一斉休校までした効果が顕れています。
なお、新型コロナウイルス肺炎の潜伏期間は2-12日間といわれています。また、様々な事例を見ると症状発生から検査で陽性であることが判明するまでに3-20日間を擁しています。したがって、感染してから感染が判明するまでは5-32日間かかります。大雑把に約2週間ちょっとかかるとみてよいでしょう。
政府が大規模イベントの自粛を要請したのが2月26日、ピークの3/10の約2週間前ですから、自粛はピークを抑制する効果もあったと推定されます。したがって、専門家委員会が2月24日にここ1-2週間がヤマ場といったのも、それを受けて政府が自粛要請したことも適切だったと思われます。
また、感染が判明した有症状者は即入院していますが、退院までに3週間ぐらいを必要とするようです。ピークの終わりが3月14日ですから、それから3週間たつ4月上旬から、入院者数が減少することが期待できます。
まあ、素人考えなのでどれほど妥当な推測なのか、分かりませんけど。
さて、調査したデータを載せておきます。
データはすべて、厚労省の
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html
から抽出しました。
発生状況の各ページ(新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について)には、前日に厚労省に届いた感染判明者の日毎の報告数と累積数が載っています((前日に報告が届いたのであって、前日に陽性が判明したとは限りません。これは検査数も同じであくまでも報告された数で前日に実施された数ではありません。この報告数の集計の仕方が徐々に変わっているのですが、ここでは3月22日に採用された集計の方法を採用しました。すなわち、チャーター便帰国の感染者も、空港の検疫で見つかった感染者も合計に入れました。
国内の患者発生の各ページ(新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について)には、その日に各県から届いた感染事例の概要が記載されています。そこから、海外渡航の履歴のある人を海外感染者としました。なお、ほとんどの事例で当日から5日ぐらいの間で発症しており、国内ではなく海外で感染したとみてよいと思います。また、帰国者の家族で家庭内感染した人も、自然な状態での国内感染ではないので海外感染の方に含めました。
月日+A2:E19 | 累積数 | 日別報告数 | 帰国者 | 内訳 |
3月5日 | 318 | 34 | 2 | 宮崎1、空港1 |
3月6日 | 349 | 31 | 2 | 京都1、愛知1 |
3月7日 | 455 | 47 | 2 | 横浜1、空港1 |
3月8日 | 488 | 33 | 1 | 高知1 |
3月9日 | 514 | 26 | 0 | |
3月10日 | 568 | 54 | 2 | さいたま2 |
3月11日 | 620 | 52 | 3 | 埼玉1、千葉2 |
3月12日 | 675 | 55 | 5 | さいたま1+1、埼玉2、静岡1 |
3月13日 | 716 | 41 | 5 | 埼玉1、神奈川1、千葉1、佐賀1、空港1 |
3月14日 | 780 | 64 | 8 | 長野1、福島1、東京2、大阪1、兵庫2、空港1 |
3月15日 | 814 | 34 | 4 | 横須賀1、東京1、空港2 |
3月16日 | 829 | 15 | 2 | 愛知1、神戸1 |
3月17日 | 873 | 44 | 10 | 滋賀1、宮崎1、茨城1、埼玉3、さいたま1、京都2、福岡1 |
3月18日 | 914 | 41 | 11 | 愛媛1、岐阜1、千葉1、宇都宮1、茨城1、埼玉1、愛知2、東京1、空港2 |
3月19日 | 950 | 36 | 10 | 福岡1、千葉1、神奈川2、相模原1、札幌1、大阪1、埼玉1、熊本1、茨城1 |
3月20日 | 1007 | 57 | 14 | 広島1、石川1、千葉2、東京4、越谷1、尼崎1、空港4 |
3月21日 | 1046 | 39 | 19 | 藤沢1、横浜1、千葉1、奈良1、川口1、下関1、岡山1、東京2、大阪1+2、川崎1、岐阜1、空港5 |
*すべて厚労省のサイトに基づいた情報 | ||||
*累積数、日別報告数には空港検疫、チャーター便の事例を含めた(3月22日の集計法に準じた)。 | ||||
*厚労省サイトで渡航歴があるとわかる事例を帰国者とした。 | ||||
*空港検疫での判明者と家庭内感染者を帰国者に含めた。 | ||||
*1+2などの表記は、帰国者数+家庭内感染者数を表す。 |
新型コロナ:日本の線形的増加がおかしいと批判される中、北欧も線形化
この記事では、前半に北欧諸国の感染増加が線形化したことを扱い、後半では活動自粛と一斉休校の効果がいつ現れるかという点についての拙い憶測を書きます。
日本の感染確認数は線形的に増加しています。
これは、現在の西欧諸国とアメリカでみられる指数関数的増加と全く対照的です。中国や韓国の増加期も同様に指数関数的増加でした。
日本だけ違う傾向であることに対して、日々の検査数を意図的に抑えているだの、数字が操作されているだのといったゲスな勘繰りによる批判がなされています。なんの証拠も示さずに、とにかく日本は間違っているという立場に立って批判がなされており、ほんとゲスイと思います。
批判するのはよいのですが、せめて、他国より少ない死者数や他国とそん色のない陽性率について、証拠に基づいて合理的に説明してほしいものです。
この日本の線形的増加ですが、欧米や中韓にしか目を向けない人にとっては、奇異に映るかもしれません。しかし、中韓を除く、多くのアジアの国々、特に東南アジアの国々は同じ線形的増加を示しています。(ただし、最近一部の国が指数関数的増加に変わりつつあるようです)
したがって、日本だけでみられる特別な傾向というわけではありません。
最近、その例が加わりつつあるようです。
前回の記事で言及した北欧諸国です。
フィンランドが少し心配ですが、スウェーデン、ノルウェーは確実に線形増加に変わっています。デンマークも同じです。Wikipediaで確認できます。
https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_Finland
https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_Sweden
https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_Norway
https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_Denmark
そのWikipediaから、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの日別感染確認数のグラフを引用します。累積感染確認数が指数関数的に変化するときは、日別感染確認数が単調増加しますが、これらはほぼ一定数となっていて累積が線形的に変化していることが分かります。
このように考えると、中韓米や西欧諸国は初期の抑え込みに失敗した例で、日本、東南アジア、北欧諸国は抑え込みに成功した例であり、感染確認数の増加傾向の違いは単にその顕れに過ぎないと考えられます。
日本が抑え込みに成功しているとはいえ、予断は許されません。台湾は線形の傾向は保っていますが、増加数が増えました。おそらく帰国者が増えて、その分の増加があるのではないかと思います。香港、シンガポール、インドネシアなどは指数関数的変化に変わりつつあるように見えます。タイとマレーシアはその傾向がもっとくっきりしており、おそらく指数関数的増加に変わっていると思われます。
日本もいつそのようになってもおかしくありません。
イベントや会合の自粛と一斉休校が始まって3週間が過ぎました。日本国内で発生した過去のクラスタを調べると、感染が発生してからクラスタであることが判明するまでに2~4週間かかっています(東京屋形船1/18→2/14、愛知スポーツジム2/9→2/22、大阪ライブハウス2/15→2/29)。その後、1-2週間は感染者の発見が続いています。
3週間たったので、そろそろ明瞭に数字が小さくなるほど効果が顕れるかもと期待していたのですが、まだ減少は確認できません。3月9日ぐらいからいままで、毎日40~55ぐらいの発生があります。一方、指数関数的増加はないので、政策の効果そのものは表れています。
減少に至らない一つの要因は帰国者です。各国が渡航制限を取ったために、帰国者が相次いでおり、その中に感染者がいます。大まかに毎日の発生の4分の1程度はいるように思います。実はこの要因が減少を妨げている最大の要因だと思います。
もう一つの要因は、(福祉施設を含む)院内感染の増加です。複数のクラスタが発生しています。
もう一つは、NTTドコモでの職場内感染です。東京は情報開示のレベルが低くて把握しにくいのですが、最初の発症が3月3-5日のどこかであり、クラスタの判明が15日のようです。潜伏期間を2~14日とすると、最初の人は2月下旬に感染した可能性が高いと思います。
院内感染は今のものが収まっても別のものが発生するでしょうから、ベースライン(感染判明数の下限)と考えられます。帰国者は先週が多かったはずなので、あと2週間ぐらいは発生が続くと思いますが、そこで止まると思います。NTTドコモはクラスタ発生が2月下旬か3月上旬とすると、今月中はだらだらと続くかもしれませんが、発生数そのものはこれから減少していくものと思われます。
ということを考えると、残念ながら来週は減少を明瞭に確認することは難しく、再来週ぐらいから確認できるのではないかと推測します。他に要因がなければという前提条件付きですが。
新型肺炎:院内感染を防げ!
自粛要請で、イベントやレジャー施設での集団感染は少なくなりました。一方、家族内感染と院内感染が増えているように思います。前者は防ぎようがありませんが、後者は医療崩壊にもつながりかねませんから、何とかして防がなければなりません。
気になるのは、マスクや消毒液などの買い占めです。転売屋が問題になっていますが、量を考えると一般の人が少しずつ買いためている方が多いはずです。今は病院、高齢者や児童の介護・養護施設でそれらが十分にあることが必要です。
足りないと聞くとついつい買いためておきたくなるものですが、買い貯めてもどうせ使いきれません。一人一人が不必要に買わないようにするだけで、現在の不足状態は大幅に緩和されるはずです。
高齢者や児童などに思いをはせ、無駄に買いためないように心がけたいものです。
新型肺炎:エピデミック、パンデミックに普通の数理モデルを使うことの危険性
人は簡単にデータに騙されます。相関係数が低いのに直感で相関があると思い込んだり、単なる相関を因果関係だと思ってしまうことはその代表です。
新型コロナウイルス肺炎でもデータに騙される実例が多々見受けられます。
最近出回っているのが、縦軸に「感染者数」の対数を取り、横軸に経過日数を取ったグラフです。中国、韓国、イタリア、イラン、ドイツ、フランス、スペイン、アメリカ、イギリスのプロットに、日本のプロットを加えたものです。実にきれいなグラフで、日本以外はほぼ同じ傾きのプロットなのに、日本だけが緩い傾きになっています。日本だけ異なる傾向にあるように見えるのです。
これをもってして、日本の検査体制を批判したり、ひどい例では数字の操作を疑ったりしています。
その一例がこちらにまとまっていました。
さて、なぜグラフの縦軸を”対数”にするかといいますと、感染症モデルを用いた理論では、流行初期においては感染者数が指数関数的に増えることが示されているからです。指数関数ですから対数でプロットすると直線を描くのです。実にきれいな理論であり、古くから人間社会に存在している感染症の多くがこの理論に近いふるまいをします。また、この直線の傾きは感染症の性質と医療のレベルで決まってきますので、同じ感染症、同じレベルの医療で、十分な医療資源がある場合は同じ傾きになるはずです。
このような背景があるために、同じ感染症で、しかも医療レベルに大差がないにもかかわらず、日本だけ「感染者数」の対数の傾きが異なることが注目されたわけです。また人々が検査体制や数字の操作にその理由を求めようとしてしまうわけです。
しかし、後日説明しますが、今回のケースにこの感染症モデルを当てはめるのは間違っています。まあ、限定条件付きであてはめてもよいかもしれませんが、少なくとも「同じ感染症、同じレベルの医療の場合は同じ傾きになる」という前提はあてはめるべきではありません。
統計に親しみのない人なら容易に騙されます。これは理解できます。しかし、公衆衛生学を学んでいるはずの医者や、統計を身に着けているはずの理系の博士までもが騙されており、憂慮すべき事態になっています。
詳細は後日説明しようと思いますが、ここでは一番のポイントだけ示します。
上の文章で、「感染者数」をカッコつきで表現していることにお気づきだと思います。ここがポイントです。グラフの縦軸はNumber of reported casesとなっています。勘違いしている人はこれを感染者数と誤解しています。しかし、実際には感染者数ではなく、検査で陽性と判定された人の数です。この陽性判明人数は感染者数と同一ではありません。
陽性判明人数は、検査可能な上限数に制限を受けます。大規模なアウトブレイクが発生したとき、最初は検査可能数が少ないので、陽性判明人数は感染者数よりはるかに少ない数となります。徐々に検査体制が整い、検査可能数が増えると陽性判明人数がそれに合わせて増加します。私が確認したところでは、韓国の例では、この検査可能数が指数関数的に増えています。十分には確認できていませんがおそらくイタリアとアメリカもそうだと思います。
興味のある方はご存じだと思いますが、中国、韓国、イタリア、イラン、ドイツ、フランス、スペイン、アメリカでは、大規模アウトブレイクの最初の症例が見つかった時点で既にかなりの数の感染者が発生しています(イギリスはよくわかりません)。大量の感染者がいて、検査可能数も十分に大きい場合、検査開始後に大量の陽性判明者が発生し、それが一段落した後から指数関数に従うようになるはずです。ところが、グラフを見て分かるように、すべての国が指数関数的振る舞いをしています。すなわち、このグラフは陽性判明者数が感染症モデル理論に従っておらず、初期段階では検査可能数に比例するであろうことを意味しています。
では、なぜ日本「だけ」が傾きが異なるのでしょうか?
これは後日チャンスがあれば記事に書きたいと思います。あらかじめ答えの一つを言っておくと、傾きが異なるのは日本だけではありません。大規模アウトブレイクが発生していない国はすべて、傾きが異なります。
あのグラフは、大規模アウトブレイクが発生した、エピデミック状態の国を選択し、その中に日本を加えたものです。日本ではエピデミックは発生していませんから、傾きが異なるのも何ら不自然ではありません。これら以外の国、例えば、シンガポールや香港を加えれば、エピデミック国群とは異なる傾向になるはずです。要するに、あのグラフは元々日本だけが異なるように作られたものなのです。騙されてはいけません、皆さん。
新型肺炎:韓国の新規感染は減少しているのか?
WHOから韓国の新型コロナウイルスの集団感染についてこんな発表があったそうです。
テドロス・アダノム・ゲブレイェソスWHO事務局長が5日(現地時間)、スイス・ジュネーブのWHO本部で開かれたメディア記者会見で「韓国で新たに報告された新型コロナウイルス感染事例が減少している」とし「心強い兆候を見ている」と述べた。
これは、韓国政府の「今後減少する見込み」という認識を受けたものですが、本当に減少しているでしょうか?
データを見る限り私は減少しているという印象を受けなかったので、違和感を覚えました。そこで、データを少し分析してみました。
結論を先に述べておきますと、感染判明率がピークよりは減っているのは確かです。ただ、減少し続けてはおらず現時点ではほぼ一定です。したがって、WHOの声明はまだ早いと思われます。
さて、新規感染が減少したことを確認するにはどの指標が良いのでしょうか? いろいろ考えられますが、検査件数当たりの陽性判明数、すなわち陽性率を用いることにします。
というのも、利用可能なデータがあるからです。韓国政府は、陽性判明数、検査受付数、検査処理待ち数を定時に発表しています。いずれの数値も累積数ですが、前回発表との差をとることで新規分の陽性判明数と検査処理数が計算できます。
ということで、聯合ニュースの記事を集めて、累積の陽性判明数、検査受付数、検査処理待ち数を集め、それから新規の検査処理数と陽性判明数を計算しました。
結果が次の表です。
日時 | 陽性累計 | 陽性判明数 | 検査数 | 陽性率% |
25日9時 | 893 | 60 | ||
25日16時 | 977 | 84 | 2893 | 2.90 |
26日9時 | 1146 | 169 | 2754 | 6.14 |
26日16時 | 1261 | 115 | 3379 | 3.40 |
27日16時 | 1766 | 505 | 7742 | 6.52 |
28日9時 | 2022 | 256 | 4849 | 5.28 |
28日16時 | 2337 | 315 | 4426 | 7.12 |
29日9時 | 2931 | 594 | 5015 | 11.84 |
1日9時 | 3526 | 595 | 7429 | 8.01 |
2日0時 | 4212 | 686 | 10543 | 6.51 |
3日0時 | 4812 | 600 | 13904 | 4.32 |
4日0時 | 5328 | 516 | 17481 | 2.95 |
5日0時 | 5766 | 438 | 16000 | 2.74 |
6日0時 | 6284 | 518 | 17659 | 2.93 |
7日0時 | 6767 | 483 | 15178 | 3.18 |
8日0時 | 7134 | 367 | 10206 | 3.60 |
見て分かるように、新規の陽性判明率は29日9時がピークです。8日0時の時点ではピークの約3分の1にまで減っています。ピークより減っているという意味では減少しています。ただし、4日からはほぼ3%と一定であり減っている状況ではありません。むしろこの2日ほどは上昇しています。
したがって、WHOが言うように感染事例が減少しているという状況では全くありません。
この現象はどう考えればよいでしょうか? よくある感染症の数理モデル(例えばSIRモデル)では、感染者数は徐々に増加してひとつのピークを描き、ピーク後は徐々に減少します。実際の陽性判明者数は一定・再増加していますから、通常のモデルのようにピークが過ぎたから減少するとは言えません。
では、実際の韓国での現象と数理モデルとの違いはどこからきているか? これを少し考えてみます。
まず、一番大きな違いは、モデルでは感染者数を観測量としてとっているのに対して、上記の表では観測量が陽性判明者数であることです。数理モデルでの感染者数は、診断で確定した人の総数の場合も、データから推定した推定総数の場合もあるようですが、どちらにせよ実際に感染した人の数です。一方、陽性判明者数は、(当たり前ですが)その時点で検査で陽性となった人の数です。これが実に厄介です。
現在韓国では、調査対象を広げすぎて検査が追い付いていません。すなわち、陽性判明者数は実際の感染者数よりも少なくなっています。また、検査は感染の疑いが強い人を最初にしますので、日によって検査するグループの統計的性質が異なっていると考えられます。表ではわりと急峻なピークが見て取れますが、私の感覚では急峻すぎます。そのため、感染者数の変化を反映しているというより、検査グループの統計的性質の変化を示しているだけのように感じられてなりません。
他にも問題があります、韓国では積極的に検査数を増やしているために、症状の軽い人や症状の出ていない人の割合が高いと思われます。症状の出ていない人は数理モデルの感染者に該当するのでしょうか? また、症状の軽い人も普通は風邪と思って、特段の治療をせずにそのまま治ってしましますが、これも数理モデルの感染者に含めてよいのでしょうか? ちょっと、この点はわかりません。
いずれにせよ、結論としては、韓国の感染が減少しているとは言えないというものになります。また、韓国の現状は、ピークの後に単調減少するような数理モデルをあてはめられる状況ではなく、多少の陽性判明率の増減からは何も結論付けられないとも指摘できます。
最後に、韓国の状況で気になっているのは、医療システムが飽和していて崩壊に近いことです。これからしばらくは死者数の増加が増えるのではないかという懸念を抱いています。それから、検査での偽陰性が多いことも気になります。実際には感染しているのに検査で陰性と判定された人が起点となったアウトブレイクが当面は収まらないのではないかと心配です。